初めて就職したのは、田舎にある空調機メーカーの工場だった。
毎日、ビスを止めて、断熱材を貼り、地下鉄用の巨大な空調機を組み立てる。同じ作業の繰り返し。
そんな現場に、一人だけ憧れの先輩がいた。無口で寡黙。必要以上には喋らない。でも、新人の僕にはいつも優しかった。
分からないことがあれば手を止めて教えてくれる。誰に対しても笑顔で接する。そして、とにかく顔がカッコよかった。
男の僕から見ても、「こんな大人になりたい。」そう思える人だった。
ある日、ライン作業をしながら先輩が声をかけてきた。
「まふぇっとくん、今彼女いないよね?」「僕の彼女の友達が彼氏探してるんだけど、一度会ってみる?」
もちろん断る理由なんてない。当時の僕は恋愛経験も少なく、女性を紹介してもらえるだけで十分嬉しかった。
数日後。居酒屋で四人が集まった。
先輩。
その彼女。
紹介してもらう女性。
そして僕。
紹介してもらった女性は、「スーツ専門店で働く女性」に勤める20代の女性だった。派手ではない。でも、スーツがよく似合う落ち着いた雰囲気の人だった。
先輩カップルが場を盛り上げてくれたおかげで、初対面とは思えないくらい楽しい時間が流れていった。
ところが、その席で僕は人生観が揺らぐ出来事を経験する。
実はこの食事会には、もう一つ目的があった。先輩たちの結婚報告だった。「結婚することになった。」おめでたい話だった。
でも、その瞬間。僕の頭の中は、お祝いどころではなくなった。先輩の隣に座る婚約者を見て、当時の僕は大きな衝撃を受けた。
正直に言えば、僕の好みとは大きく違う女性だった。その瞬間、頭の中が真っ白になった。
「えっ……なんで?」
仕事もできる。性格もいい。誰からも好かれる。しかもイケメン。そんな先輩なら、もっと美人な女性と結婚できるはずだ。本気でそう思った。
当時の僕は、恋愛を弱肉強食の世界だと思っていた。イケメンなら美女。そうじゃないなら負け。そんな単純な物差しでしか、人を見られていなかった。
そして、心の中で最低なことを思った。
「あ、この人……男としては俺より下なんだ。」
今思い返しても、本当に最低だと思う。あれだけ憧れていた先輩を、たった一つの理由だけで見下してしまった。
しかも、先輩は何も変わっていない。変わったのは、僕の見方だけだった。
居酒屋の帰り道。
「ああ、俺って性格悪いな。」
そう思ったのを、今でも覚えている。紹介してもらった彼女は、本当にいい人だった。もし先輩の紹介じゃなければ、その後も普通に会っていたかもしれない。
でも僕は、自分から連絡を取らなくなった。デートをするたびに、その話が先輩カップルへ伝わる気がして落ち着かなかった。
恋愛そのものより、人間関係の距離感が気になってしまったのだ。結局、この恋は始まることなく終わった。
今なら思う。あの頃の僕は、他人の幸せを自分の価値観で勝手に採点していた。
「イケメンなんだから。」「もっと美人と付き合えるのに。」
そんな考え方しかできなかった。でも、本当に大切なのは、周りからどう見えるかじゃない。本人が幸せかどうかだ。
その当たり前のことを、当時の僕はまだ知らなかった。憧れの先輩は、何も間違っていなかった。
未熟だったのは、僕のほうだった。そして、この出来事は恋愛よりも、人としての未熟さを教えてくれた出来事だった。
(52人目へ続く)—
💡 今日のまふぇっと教訓
👉 人は、自分の価値観で他人の幸せを勝手に採点してしまう。本当に未熟だったのは、相手ではなく、自分の物差しなのかもしれない。
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