横浜駅前の喧騒の中、俺の手元にあったのは、さっき駅前のコンビニで買ったばかりの、透明なビニール袋に入った200円のマシュマロだった。
77人目の女性。マッチングアプリで出会った彼女は、横浜らしい洗練された可愛らしさを持つ女性だった。
覚醒前の「かつての僕」なら、最初から「俺なんかじゃ無理だ」と諦めていたかもしれない。
だが、今の僕は違った。10連敗を経て、「攻撃型ロボット・俺様」を作り上げた。
相手に媚びない。嫌われることを恐れない。そして、自分から相手を選ぶ。
――それが、当時の俺様理論だった。
2回目のデートで、ホテルへ
彼女との2回目のデート。居酒屋で酒を酌み交わしたあと、僕たちはホテルへ向かった。
当時の僕は、「可愛い女性を確実に手に入れたい」という焦りをまだ完全には捨て切れていなかった。
頭では「余裕のある男」を演じようとしている。でも、本当のところは、まだ必死だった。
その焦りは、ベッドの上でも出た。僕は前戯もそこそこに、すぐに身体を重ねようとした。
すると彼女が、少し驚いたように言った。「え、前戯なしなの……?」その一言に、一瞬だけプライドが揺らいだ。
普通なら、ここで自分の行動を振り返るところだ。でも当時の僕は違った。「俺様は動じない男だ。」そんな妙な意地があった。
今振り返れば、余裕だったというより、弱さを見せたくなかっただけだったと思う。
「これ、ちょっと早いけどバレンタインね!」
その後、居酒屋で彼女は笑顔で言った。「これ、ちょっと早いけどバレンタインね!」手渡されたのは、ミスタードーナツの5個入りセットだった。
「お返しなんて、本当に何でもいいからね」彼女はそう言った。
そして、ホワイトデー当日。僕たちは横浜駅前で待ち合わせた。僕は直前にコンビニへ寄った。
そこで買ったもの。――200円のマシュマロ。
それをビニール袋に入れたまま、彼女に差し出した。「はい、これ。お返し。」
彼女は袋の中を見た。そして――笑顔が消えた。「はぁ……?」
一瞬、何を言われているのか分からないような顔。「これ……?」そして、怒りが表情に出てきた。
「これがホワイトデーのお返し?」
「私のミスドと、全然釣り合ってないんだけど!」
駅前を行き交う人たちの中で、彼女の声が響いた。「バカにしてるの!?」
昔の僕だったら、どうしていただろう。おそらく顔を真っ青にして、「ごめん。本当にごめん」と何度も謝っていた。
そして、その場で高価なチョコレートでも買いに走っていたかもしれない。
でも、この頃の僕は違った。無表情のまま、彼女に言った。「何でもいいって言ったじゃん。」それ以上、謝らなかった。
彼女が怒っていても、機嫌を取ろうとはしなかった。僕はそのまま、その場を離れた。
電車の中で、一瞬だけ「昔の僕」が戻ってきた
一人になって電車に乗った。窓の外を眺めながら、ふと思った。
(……さすがに200円のマシュマロは、やりすぎだったか?)
(前の俺だったら、ミスド5個のお返しに、5,000円とか1万円くらいのものを必死に探していたかもしれない。)
ほんの一瞬だけ、昔の自分が顔を出した。でも、すぐにその考えを打ち消した。
(いや、これでいい。)
(俺はもう、相手に好かれるために必死になる男じゃない。)
(嫌われてもいい。)
そう自分に言い聞かせた。そして、こう考えた。(これは復讐劇なんだ。)10連敗して、何度も振られた。
自分ばかりが相手を好きになり、相手に選ばれることを待っていた。
その自分を、俺は捨てようとしていた。だから――「200円でいい。」そんな極端なところまで、自分を持っていった。
でも、本当に強くなったのか?当時の僕は、この出来事を「俺様理論の成功」と考えていた。
女性に嫌われることを恐れず、自分のスタンスを貫いた。
相手の機嫌を取らなかった。「選ばれる男」から「選ぶ男」へ。――俺は変わった。
そう思っていた。でも、今振り返ると、少し違う。200円のマシュマロを渡したこと自体が問題なのではない。
問題だったのは、「相手に嫌われても平気な俺」を証明するために、わざと冷たくなる必要があったこと。
俺様理論は、少しずつ「自分を守るための理論」から、「相手を傷つけても構わない理論」へ変わり始めていた。
強くなったのではない。傷つきたくないから、感情を切り離していた。
それが当時の僕には、「強さ」に見えていた。
ロボット・マフェットの誕生
この頃の僕は、女性との関係を一つ一つの「実験」のように考え始めていた。
うまくいけば成功。ダメなら、次。嫌われてもいい。振られてもいい。どうせ次の女性がいる。
そう考えることで、失敗しても傷つかないようにしていた。そして、この考え方は、この先の恋愛にもどんどん影響していく。
「僕」という人間の中に、「俺様」という別の人格を作る。優しい僕。傷つきやすい僕。選ばれたい僕。
そんな自分を、分厚い鎧で覆っていく。その鎧の名前が、「ロボット・マフェット」だった。
200円のマシュマロ。今考えれば、本当に小さな出来事だ。
でも、この小さな出来事の中に、当時の僕の恋愛観が全部詰まっていた。
相手に好かれたい。でも、傷つきたくない。だから、先に冷たくなる。嫌われてもいいと思い込む
そして、相手を失う前に、自分から感情を切り離す。――俺様理論は、そんな男を作っていった。
【今日のマフェット教訓】
「何でもいい」は、本当に何でもいいとは限らない。当時の俺は、それを文字通り受け取った。
そして、200円のマシュマロを渡した。彼女が怒ったとき、昔の俺なら必死に謝っていただろう。でも、この頃の俺は違った。
「何でもいいって言ったじゃん。」それだけだった。嫌われることを恐れない。相手に媚びない。自分から選ぶ側に回る。
――それが、俺様理論だった。ただ、今振り返れば、これは「強くなった」というより、傷つかないために冷たくなっていただけなのかもしれない。
200円のマシュマロは、俺が「ロボット・マフェット」へ変わっていく途中にあった、小さな事件だった。そして俺は、このロボットのまま、次の女性へ向かっていく。
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