大学1年の夏。
通学バスで、いつも同じ時間に乗る女の子がいた。少しぽっちゃりしていて、肌がとても綺麗な子だった。
毎日顔を合わせるうちに、僕は思い切って声をかけた。
「いつも同じバスですね」
「何学部なんですか?」
これが意外と盛り上がった。大学の話、授業の話。バスの15分は、毎回あっという間だった。
そして僕は調子に乗る。
「今度、遊園地行こうよ」
彼女は普通にOKしてくれた。ここまでは、完璧だった。そしてデート当日。遊園地の前で待ち合わせ。
……ここから地獄が始まる。
「何乗る?」
「……怖いのは無理」
「ご飯食べる?」
「……お腹空いてない」
会話が続かない。バスではあんなに話せたのに。アトラクションも乗らない。結局、ベンチに座っている時間が一番長かった。
今思えば、遊園地でベンチに座るデートって、かなり地獄である。気づけば6時間。周りは楽しそうなカップルだらけ。なのに僕たちはほぼ無言。
帰り道も、特に盛り上がることはなかった。バスの中ではあんなに話せたのに。
「好きかも」という気持ちだけで突っ走った恋は、遊園地のゲートを出る頃には静かに終わっていた。
デートのあとも、僕たちは同じバスに乗っていた。でも、お互い声をかけることはなかった。
「知り合い」からいつの間にか 「ただの他人」に戻っていた。
ある日のこと。バス停で彼女が男と話していた。そのまま同じバスに乗る。そしてなぜか、彼女は僕の真後ろに立った。
男と楽しそうに話しながら。大学へ向かう道でも、ずっと笑い声が聞こえる。……なんとなくだけど。見せつけられている気がした。
それ以来、僕はバスの時間をずらした。もう、顔を合わせることもなくなった。
あの頃の僕はまだ知らなかった。このあと僕が、ナンパを覚えること。そして――人生で初めての彼女ができることを。
💡今日のまふぇっと教訓
「沈黙デートのあとに待っているのは、気まずい通学バスである。」


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