大学の夏休み。
僕は「時給の良さ」に釣られて、ある個別指導塾の門を叩いた。大したテストもなく、面接だけであっさり合格。
当時の僕は、中身はともかく 見た目だけは真面目な大学生に見えたんだろう。
任命されたのは、国語の講師。
生徒は中学生が8人ほど。
しかし授業が始まってすぐに気づいた。
「人に教えるって、めちゃくちゃ難しい……」
結局僕は、問題集の答えをチラ見しながら、それをそのまま生徒に伝えるだけの授業になっていた。
要するに
「答えを読み上げるだけの先生」。
そんな授業のせいか、はたまた僕に色気がなかったせいか。
女子生徒からはこんなことを聞かれる。
「先生、どんな恋愛してきたのー?」
「黒髪の男ってダサくない?」
当時の僕は恋愛経験もほとんどない。
気の利いた返しなんて、できるはずもなかった。
そして…
生徒は一人、また一人と辞めていった。
気づけば、最後には 人懐っこい男子生徒が一人だけ残った。
授業が終わると、自転車で僕の後ろを追いかけてくるような、可愛い奴だった。
しかし、ある日の帰り道。
彼が申し訳なさそうに言った。
「先生……お母さんに言われた」
「国語の授業、出る意味ないって」
「僕、今日で辞めるね」
……ガ~~ン。
僕の塾講師としての存在意義が、木っ端微塵に砕け散った瞬間だった。
その直後、塾長から呼び出しがかかる。
部屋に入ると、そこには塾長と、なぜかミニスカートの派手な女先生が座っていた。
(……え?ここ塾だよね?)
(合コン帰り? 中学生には刺激強すぎない?)
そんな僕の困惑をよそに、塾長が少し言いづらそうに口を開いた。
「来月分の給料も渡すので……」
「今日で辞めてもらえますか?」
その瞬間、僕の心は叫んだ。
(やった!!)
(働かずして来月分の給料ゲットだ!!)
クビ宣告のショックは、わずか数秒で
「給料への喜び」へと上書きされた。
そんな、ほろ苦くも現金な夏休みの思い出。
この頃の僕はまだ知らなかった。このあと、自分の人生を大きく変える「ある行動」に出ることになる。
💡 今日のまふぇっと教訓
「自分の言葉がない男の話は、誰も聞かない。」


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