同窓会が終わってから、少しだけ心が軽くなっていた。初恋の人。 1軍女子。壺売りの営業スマイル。
高校時代の亡霊みたいなものを、一通り見終わった気がしていた。そして、あさみという強烈な思い出も、ようやく身体から抜け始めていた。
だから僕は、新しい世界に行きたくなった。向かった先は――大阪。マッチングアプリ全盛期。
田舎の人間からすると、都会はそれだけで別世界だった。そこで出会ったのが、彼女だった。
正直、写真を見た瞬間に「なんでマッチした?」と思った。顔が整いすぎていた。都会っぽい空気。 年上らしい余裕。 綺麗めのファッション。
話し方まで洗練されていて、当時の僕からすると完全に“別カテゴリの人種”だった。
当時の自分をRPGの100マックスで例えるなら、せいぜいレベル40くらい。でも彼女は、間違いなくレベル90以上だった。
本来なら、同じ画面に出てきちゃいけない相手。それでも、なぜかデートは続いた。
夜の大阪。 車内に流れる音楽。 助手席に座る都会の美女。それだけで、田舎者の僕の承認欲求はかなり満たされていた。
ただ――。今思えば、当時の僕は本当に“地方の男”だった。都会の女をエスコートするセンスなんて、何ひとつ持っていなかった。
「オシャレな店」と聞いて思い浮かぶレベルが、あまりにも低かった。だから僕は、自信満々に彼女をあるパスタ屋へ連れて行った。
「ここ、美味しいんだよ」ドヤ顔だったと思う。出てきたパスタには、なぜか皿の端に“蔦みたいな草”が添えられていた。
当時の僕は、その草を見て感動していた。
(うわ、都会っぽ……!)しかも値段は390円。
安い。 オシャレ。 最強。当時の僕の価値観では、完全に優良店だった。
でも今なら分かる。あの時の彼女、たぶん内心こう思ってた。
「390円……?」
「ていうか、この草なに……?」
「可愛いけど、味するのこれ……?」
絶対ちょっと引いてたと思う。でも彼女は、そんな顔を見せなかった。笑っていた。優しかった。
何回もドライブに付き合ってくれた。だから僕は、勘違いした。「もしかして、いけるのかもしれない」男って、本当に都合がいい。
車内で二人きりになるたび、僕は距離を詰めようとした。キスもした。彼女は拒まなかった。ちゃんと受け入れてくれた。
だけど。唇が触れた瞬間だけ、彼女の顔が変わる。なんというか
――“まずい飯を食べた時の顔”だった。
「うっ……」って感じの、あの一瞬の渋い表情。もちろん次の瞬間には戻る。笑顔に。 優しい顔に。
でも、キスした瞬間だけ、毎回その顔になる。最初は気のせいかと思った。でも僕は、違和感を見つけると確認したくなるタイプだった。
だから何回も試した。結果は全部同じ。キスはさせてくれる。でも、顔は毎回「嫌そう」だった。
その時点で、僕の脳はだいぶ冷えていた。ホテルに誘う勇気なんて出るわけがない。だってキスだけで、 「うわ、なんか無理かも」 みたいな顔をされているのだ。僕はそこでようやく理解した。
彼女にとって僕は、“本命の男”ではなかった。車を出してくれる。 話を聞いてくれる。 田舎からわざわざ会いに来る。
そういう、“都合のいい男”だった。キスくらいなら応じる。でも、生理的な本音までは誤魔化せない。人間って、結局そこに全部出る。最後のデートの帰り道。僕はまだ、諦めきれていなかった。というか、認めたくなかった。
だから勢いで、とんでもないことを言った。
「結婚しよう」
「だから、僕の地元に来てよ」
今思えば、かなり浅い。あさみと地獄みたいな別れ方をした直後なのに、レベル90美女を前にした瞬間、秒で結婚を口にしている。
男って現金だなと思う。すると彼女は、少し笑って言った。
「まふぇっと君が、大阪来てくれるならね」
綺麗な返しだった。お互い、本気じゃない。でも、お互い分かっていた。この関係は、ここまでだって。
都会の女と、 地方の男。埋まらない温度差。そのあと、自然と連絡は途切れた。身体の関係すらないまま終わった。ただ、都会の夜景だけが妙に綺麗だったことを、今でも覚えている。
💡 今日のまふぇっと教訓
👉 格上美女を前にした男は、過去の失恋を3日で忘れて「結婚しよう」とか言い出す。
👉 でも女の“キス直後の顔”は、男の幻想を一瞬で現実に戻してくる。
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正直、恋愛強者でもない僕が、 39人も出会えたのは、 マッチングアプリ時代だったからだと思っています。


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