46人目の女性との出来事は、今思い返してもなかなか強烈だった。オレンジジュースを車内にぶちまけられ。
怒りのあまり自分まで発狂したふりをして。最後は相手をドン引きさせて逃げてもらう。冷静に考えると、まともな恋愛ではない。
そんな出来事のあとに出会ったのが、47人目の彼女だった。彼女は保育士だった。派手さはない。
どちらかというと丸顔で、おっとりしていて、優しそうな雰囲気の女性だった。一緒にいて疲れない。無理に背伸びもしなくていい。
それまで出会ってきた刺激の強い女性たちとは少し違っていた。何度か会ううちに自然と付き合うようになった。
一緒にご飯を食べたり。家でのんびりしたり。特別なことは何もない。でも、その「何もない時間」が心地よかった。
そして彼女には、ひとつ印象に残っていることがある。恋人として、とても思いやりのある人だった。相手が何をしたら喜ぶのか。どうしたら楽しんでもらえるのか。そんなことを自然に考えられる人だった。
若かった当時の僕は、「相性がいい」くらいにしか思っていなかった。でも今なら分かる。あれは技術じゃなかった。思いやりだった。
相手を大切にしようとする気持ちだった。だから居心地が良かったのだと思う。
ある夏の日。僕たちは海へ行く約束をしていた。ところが当日の朝になって、僕は少し面倒になった。別に仕事が入ったわけでもない。体調が悪いわけでもない。
ただなんとなく気分が乗らなかった。今思えば最低だと思う。でも当時の僕は軽く考えていた。
「また今度行けばいいか」
そんな程度だった。だから彼女には、
「急に仕事が入った」と嘘をついた。
お昼。彼女を迎えに行った。待ち合わせ場所に着いて、僕は少し驚いた。
彼女の足元には大量の荷物が置いてあった。浮き輪。箱メガネ。シュノーケル。ビーチバッグ。まるで遠足へ行く子供みたいだった。
僕の車を見つけると、彼女は嬉しそうに荷物を抱え上げた。その姿を見た瞬間。嫌な予感がした。
助手席に乗り込んできた彼女は、本当に楽しそうだった。
海の話をしていた。
どこで泳ごうか。
何を食べようか。
そんな話をしていた。でも僕は黙っていた。自分でついた嘘が、少しずつ重くなっていた。そして車を走らせて数分後。僕は観念した。
「ごめん」「やっぱり今日、仕事になった」
彼女は黙った。怒らなかった。責めもしなかった。泣きもしなかった。ただ静かになった。
それまで楽しそうに話していた人が、突然何も話さなくなった。車内には重たい沈黙だけが残った。今でも覚えている。
怒られる方が楽だった。文句を言われる方が楽だった。でも彼女は何も言わなかった。ただ失望していた。
その静かな失望が、僕には一番きつかった。少しドライブして家の前に着いた。彼女は助手席のドアを開けた。
浮き輪を抱えた。
箱メガネを持った。
肩には荷物の紐が食い込んでいた。
そして最後まで何も言わずに車を降りた。その後ろ姿を見た時。僕はようやく理解した。
今日失ったのは、海ではなかった。信頼だった。でも今なら、もうひとつ分かることがある。
あの日失ったのは、彼女からの信頼だけじゃなかった。自分自身への信頼も失った。
僕は昔から、ナメられたくない。カッコよく見られたい。強く見られたい。そんなことばかり考えていた。
でも本当は、優しい人を大切にできる男でいたかった。約束を守れる男でいたかった。相手の気持ちを考えられる男でいたかった。
なのに現実の僕は違った。自分の気分を優先して。軽い嘘をついて。楽しみにしていた人を傷つけた。
だからあの日一番失望した相手は、彼女ではない。僕自身だった。
恋愛をしていると、浮気とか。喧嘩とか。裏切りとか。大きな事件ばかりが別れの原因だと思ってしまう。
でも実際は違う。たった一つの軽い嘘。たった一度の手抜き。それだけで終わることもある。
あの日の彼女が、その後どうなったのかは知らない。もう顔も思い出せない。会話の内容もほとんど覚えていない。
でも。両腕に浮き輪を抱えていた姿だけは、今でもはっきり覚えている。あれはたぶん。彼女を失った記憶じゃない。自分の情けなさを忘れないための記憶なんだと思う。
(48人目へ続く)
💡 今日のまふぇっと教訓
👉 人は、相手からの信頼を失った時より、自分自身に失望した時の方が長く後悔する。
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恋愛で後悔することはあっても、新しい出会いまで諦める必要はありません。 200人と出会って分かったのは、出会いは待つより、きっかけを作った方が増えるということでした。


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