同窓会
居酒屋に入った瞬間、空気が少し変わった気がした。
「あれ……まふぇっと?」
僕たちの学校は、私学の進学校でお育ちの良い集団だった。
当時の僕は本当に地味だった。クラスの端っこにも映ってないような男。自分から話しかけることなんて、ほとんど無かった。
だからみんな、僕が普通に喋ってるだけで少しざわついていた。しかも、指先にはタバコ。
「え、お前タバコ吸うん!?」
それだけで、規律の正しい彼らからすれば、軽く事件みたいな空気になってた。みんなの中で僕は、
“ずっと大人しいままの奴” で止まってたんだと思う。
でも、僕は別に何も見てなかったわけじゃない。喋れなかったから、僕はただ、ずっとみんなを眺めていた。眺める癖があった。
同級生の表情ひとつでいつもより調子が良いとか、悪いとか。
誰がどんな時に、どんな顔をするのか。
本当は何を考えてるんだろうなとか。想像しながら見ていた。
それは悪意じゃなくて、喋れない僕にとっての、唯一の関わり方だった。
だから久しぶりに会っても、なんとなく先が読めてしまう。
「あ、次はこういうこと言いそうだな」そんな、ちょっとした答え合わせをしているような感覚。
逆にみんなは、“今の僕”を知らない。初めて会う人を見るような、少し警戒した目。それが、なんか面白かった。
ナンパ同盟で、嫌というほど人と喋った。あさみとの付き合いで、自分を殺すような恋愛もしている。泥臭い失敗もしたし、痛い思いも山ほどした。
進学校のレールから外れた場所で、僕は僕なりに必死に「外の世界」を生きてきた。その結果、多少は昔みたいに人前で縮こまることは無くなってた。
そんな中、昔から僕を小馬鹿にしてた男が絡んできた。
「まふぇっとのくせに、タバコなんか吸いやがって」
「なんか悪ぶってんなー」高校の頃から、そいつはそんな感じだった。“まふぇっとのくせに”それが口癖。
とにかく、自分より下に置いておきたかったんだと思う。でも今見ると、そいつは高校の頃と何も変わってなかった。まだ同じ場所で、同じノリで、同じマウントを取ってる。
「なんか、ああ……変わってないんだなって思った」その時だった。
ーー1人目。人生で初めて告白して、3秒で振られた女の子。
高校時代、本気で好きだった。僕の中では、アイドルみたいな存在。
彼女も、少し探るみたいに話しかけてきた。
「なんか…高校の時と全然違うね」
昔は目も見て喋れなかった男が、タバコを吸いながら普通に会話してる。
たぶん、相当な違和感があったんだろう。でも、不思議だった。あれだけ好きだったのに、心臓が1ミリも動かなかった。本当に、何も感じなかったんだ。
「あれ?」って、自分で驚いた。制服を着てた頃は、あんなに輝いて見えてたのに。今見ると、ただの普通の同級生。たぶん、制服補正って本当にある。
でも、それだけじゃない。周りを見ても、みんな高校時代のままに見えた。
見た目じゃない。
空気。
喋り方。
笑い方。
時間は進んでいるのに、中身だけがあの教室に取り残されているみたいだった。
もちろん、僕だって立派な人間じゃない。ナンパして、調子乗って、傷ついて、空回りして。全然カッコよくない。
でも、それでも。僕は「あの教室の外」に出ようとはしてた。
人には、活躍できる場所や時期がある。高校で完成する人もいれば、社会に出てから変わる人もいる。
あの日、同窓会の帰り道、コンビニでタバコを買って夜道を歩きながら思った。
「ああ、ああはなりたくないな」って。
みんなは、“初めましての今の僕” を見て驚いてた。でも僕は、ずっと前からみんなを見てた。なんか、少しだけ気持ち良かった。
💡 今日のまふぇっと教訓
👉 人は、変わった人間に驚くんじゃない。👉 「変わらないと思ってた奴」が変わると、怖くなる。
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