【46人目|狂気編】発狂したら逃げていった

恋愛遍歴

45人目の彼女との時間は穏やかだった。お好み焼き屋ののれんをくぐり、何気ない会話をして、何も起こらずに終わった夏。

でも当時の僕は、そんな普通の幸せに長く留まれる人間ではなかった。刺激に慣れすぎていた。平穏よりも事件を求めていた。

そして僕は、また戦場へ戻っていった。そこで出会ったのが46人目の彼女だった。梅田で待ち合わせをした彼女は、とにかく美人だった。

どこか女優っぽい。清楚で落ち着いていて、街を歩いていても自然と目を引く。正直に言う。待ち合わせで彼女が現れた瞬間、「当たりやん」と思った。ところが、その考えは車を発進させて5分で消えた。

「ねぇ、家行っていい?」

突然だった。しかも言い方に感情がない。甘える感じでもない。照れる感じでもない。ただ確認事項を読み上げるような口調だった。

「家行っていい?」「ねぇ、家いていい?」

何度も繰り返す。最初は冗談だと思った。でも違った。彼女は本気だった。僕は探りを入れてみた。

「いやいや、家来たら襲うかもしれんやん」すると彼女は真顔で言った。

「それしたら警察呼ぶから」

意味が分からなかった。襲われるのは嫌。でも男の家には行きたい。しかも話を聞くと、他の男の家にも普通に行くらしい。

その頃には、僕の中で警報が鳴り始めていた。この人は何を考えているんだろう。何が目的なんだろう。分からない。とにかく分からない。

人間は理解できないものに恐怖を感じる。当時の僕もそうだった。美人を前にドキドキするどころか、だんだん怖くなってきた。

なんとか逃げたい。そう思った。コンビニへ寄った。彼女を店内へ誘導して、その隙に帰ろうかとも考えた。

でも彼女はぴったりついてくる。結局、僕は250mlのオレンジジュースだけを買って車へ戻った。そして再び始まる。

「家行っていい?」「家いていい?」

まるで壊れたカーナビみたいだった。さすがに限界だった。僕は言った。

「ごめん。今日は家はやめとく」

その瞬間だった。助手席で彼女がオレンジジュースの紙パックを握り潰した。ぐしゃっ。

嫌な音がした。次の瞬間。オレンジジュースが天井へ向かって噴射された。

バシャッ!!

車内に飛び散るオレンジ色の液体。チェイサーの天井を伝って落ちる果汁。

普通ならパニックになる。でも不思議なことに、その瞬間、僕の恐怖は消えた。代わりに怒りが湧いた。

出会ってまだ2時間。俺の車の中で何してんねん。その怒りが、恐怖を追い越した。今なら分かる。あの時の僕は勇敢だったわけじゃない。ただ限界だったのだ。

怖さが限界を超えると、人は強くなるんじゃない。開き直る。僕は開き直った。そして叫んだ。

「わあああああああああああああああ!!!!」

本当に叫んだ。車内で。全力で。理性を失った人間みたいに。梅田の夜を走るチェイサーの中で、僕だけが発狂していた。

すると今度は彼女の顔が変わった。初めて怯えた顔をした。

「警察呼ぶ……!」

さっきまで不気味なくらい冷静だった彼女が、明らかに引いていた。そして運良く信号が赤になった。彼女はドアを開けた。

「もう帰る!」

そう言って逃げるように去っていった。ドアが閉まった。助手席が空になった。その瞬間、僕は叫んだ。

「良かったああああああ!!!」

勝ったとか負けたとかじゃない。ただ助かった。本当にそれだけだった。車内はオレンジジュースまみれだった。

天井からは果汁がポタポタ垂れている。チェイサーは悲惨な状態だった。でも僕は心の底から安心していた。今なら分かる。

当時の僕は「ナメられたくない」と言っていた。でも本当に怖かったのは、ナメられることじゃない。理解できない人間と向き合うことだった。

そして人間は追い詰められると、勇気ではなく開き直りを手に入れる。46人目の彼女は、それを教えてくれた。二度と会いたくない方法で。

(47人目へ続く)

💡 今日のまふぇっと教訓

👉 本当に怖い相手を前にすると、人は強くなるのではなく、開き直る。

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