僕の人生のテーマは、ずっとひとつだった。
「ナメられたくない」
会社でも。 恋愛でも。 友人関係でも。とにかくナメられたくなかった。黒チェイサーに乗ったり。 低い声で喋ったり。 強そうな男を演じたり。全部そうだ。
そんな僕の前に現れた44人目の女性は、その武装を初対面であっさり剥がしてきた。彼女は年上だった。初めて会った時、僕の太ももを見て笑った。
「なんか女の子みたいな脚してるね」
カチンときた。さらに彼女は僕の顔を見ながら言った。
「ねぇ、いじめられてたでしょ?」
心臓が跳ねた。もちろん否定した。
「いや、ないない」「俺がそんな目に遭うわけないやん」
でも内心は焦っていた。なぜなら、図星だったからだ。当時の僕は必死だった。弱そうに見られたくない。ナメられたくない。だから平気な顔をした。
でも今思えば、彼女には全部見抜かれていたのだと思う。もちろん僕も黙ってやられていたわけではない。
ある日の待ち合わせ。彼女が10分ほど遅れてきた。当時の僕は思った。
(ナメられてたまるか)
そして車を発進させた。本当に帰ったのである。するとすぐ電話が鳴った。
「ちょっと待って!」「帰らないで!」
結局、近くのコンビニで合流した。その時だけは少し勝った気がした。彼女も笑いながら言った。
「こんな人初めてなんだけど」
内心ではガッツポーズだった。さらに僕は彼女にあだ名を付けた。
「たぬき」
別に可愛い意味ではない。主導権を握りたかっただけだ。でも彼女はなぜか嫌がらなかった。むしろ気に入っているようにも見えた。
結局、それすらも彼女の手のひらの上だったのかもしれない。不思議な女性だった。会うたびにちょいちょい人をイジる。
思ったことをそのまま言う。遠慮がない。でも不思議と嫌じゃなかった。むしろ気になった。腹が立つのに会いたくなる。イラッとするのにまた会いたくなる。そんな女性は初めてだった。
今思えば。それまでの僕は優しい女性ばかり探していたのかもしれない。でも彼女は違った。思ったことを隠さない。空気も読まない。そのままぶつかってくる。だから僕の虚勢も全部剥がされた。
ある夜。五月山の夜景を見に行った。車を停めて二人で夜景を眺める。大阪の街の灯りが遠くに広がっていた。
その時だった。彼女が僕を見て言った。「ねぇ」「こっち向いて」その夜のことは今でも覚えている。何をしたかよりも。その時感じた高揚感を覚えている。
当時の僕は思った。
(あぁ、これが青春ってやつか)と。
その後も何度か会った。車の中で話したり。夜中まで一緒にいたり。ホテルへ行ったこともあった。でも今思い出すのは、そういうことじゃない。
彼女といる時だけ。僕は変な感覚になった。強がっている自分。カッコつけている自分。ナメられたくない自分。全部見抜かれている気がした。
そして。それが嫌じゃなかった。しばらくして彼女とは自然と会わなくなった。大きな別れがあったわけではない。
ただ、気付けば連絡を取らなくなっていた。今となっては、なぜ終わったのかもよく覚えていない。
彼女は僕の性癖を変えた女性ではない。僕の好みを教えてくれた女性だった。
弱さを見抜く。思ったことを遠慮なく言う。本音を隠さない。そんな人と向き合っている時。僕は不思議と安心していた。
ナメられたくなくて必死だった頃。その鎧を一番簡単に壊してきたのは。黒チェイサーでもなく。夜のサングラスでもなく。年上の「たぬき」だった。
(45人目へ続く)
💡今日のまふぇっと教訓
👉 本当に相性がいい人は、カッコつけている自分より、隠している弱さの方を先に見つけてくる。
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