42人目から44人目まで。
僕の恋愛はなかなか激しかった。夜にサングラスをかけて迎えに行って盛大に滑ったり。
「ナメられたくない」と闇堕ちしたり。年上女性との関係で、自分でも知らなかった感情に振り回されたり。
今振り返ると、当時の僕は恋愛そのものより、自分自身と戦っていた気がする。
そんな時に出会ったのが、45人目の彼女だった。梅田で待ち合わせをした彼女は、これまで出会ってきた女性たちとは少し違っていた。
派手さはない。
落ち着いたパンツスタイル。
清潔感のあるショートカット。
真面目そうで、穏やかで、どこにでもいそうな普通の女の子だった。
失礼ながら、最初に目についたのはショートカットのせいか頭が少し大きく見えたことだった。
でも不思議なことに、それすら嫌な印象にはならなかった。むしろ親近感があった。僕自身も人のことを言えないからである。
それまで出会った女性たちは、良くも悪くも僕の感情を大きく揺さぶった。でも彼女にはそういう刺激がなかった。
だからこそ、一緒にいると肩の力が抜けた。僕は久しぶりに、誰かの前で戦わなくていい気がした。
その日のデートで、一つ印象的な出来事があった。夕方になり、ご飯を食べる場所を探していると、彼女が一軒のお店の前で立ち止まった。
ごく普通のお好み焼き屋だった。大きな看板があるわけでもない。雑誌に載るような有名店でもない。
ただ、のれんがかかっていた。彼女は迷いなく言った。
「ここ入ろっか」
そしてそのまま店の中へ入っていった。大阪の人にとっては当たり前なのかもしれない。でも当時の僕には少し衝撃だった。
行ったこともない店。
口コミも知らない店。
それなのに、のれんだけを信じて入っていく。
僕にはその発想がなかった。どこか慎重で、失敗を恐れる僕には眩しく見えた。
「大阪の人ってたくましいな」
そんなことを思いながら、お好み焼きを食べた。今思えば、ただそれだけの時間だった。でも不思議と心地よかった。
その後も何度か会った。いつもご飯を食べて、話をして、それで終わる。特別な出来事はなかった。
体の関係もなかった。でも、それで十分だった。僕は彼女にドキドキしていたわけではない。ただ、一緒にいると落ち着いた。
恋愛というより、休憩所みたいな存在だったのかもしれない。
夏になった頃、僕は彼女をプールへ誘った。今思えば少し不純な動機だった。
普段は落ち着いた服装ばかりだった彼女が、水着になったらどんな感じなのだろう。そんな想像をしていたのである。彼女は笑いながら言った。
「いいね、行こう」
僕は少し楽しみにしていた。もしかしたら、その日をきっかけに彼女のことを女性として意識するかもしれない。
そんな予感もあった。けれど、その約束は実現しなかった。プールの数日前になって、彼女から連絡が来た。
「ごめん、仕事が忙しくなっちゃって」
仕方のない理由だった。今ならそう思う。でも当時の僕は少し違った。
「やっぱり俺は優先順位が低いんだな」
そんな風に受け取ってしまった。彼女は何も悪くない。ただ予定が合わなくなっただけだ。
それなのに僕は勝手に傷ついて、勝手に距離を取った。僕から連絡をしなくなり、向こうからも連絡は来なくなった。
そして自然と関係は終わった。
今となっては、彼女と何を話したかもあまり覚えていない。お好み焼きの味も覚えていない。
もちろん、見ることのなかった水着姿も知らない。それでも、あの夏の空気だけは覚えている。
派手な恋愛ではなかった。
ドラマチックな出来事もなかった。
だけど、あの頃の僕には必要な時間だった。刺激的な恋愛ばかり追いかけていると、感覚が麻痺してくる。
そんな時に出会った彼女は、僕に「普通」の心地よさを思い出させてくれた。
だから今でも、梅田のお好み焼き屋ののれんを見ると、ふと彼女のことを思い出す。
💡 今日のまふぇっと教訓
👉 刺激的な恋愛に疲れた時、人は「普通」の価値に気づく。
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